研究概要 |
平成12〜13年度科学研究費補助金の助成を受け,我々は好塩基性封入体を伴う非定型的運動ニューロン病における運動神経細胞脱落に対する好塩基性封入体形成の意義を明らかにする目的で,この封入体の構成成分を明らかにする研究を行った.封入体の単離と分析のためにはまずmarker proteinが必要であるため,種々の蛋白に対する一次抗体を用いて好塩基性封入体の免疫組織化学染色を試みた.その結果,tau2,AT8,neurofilament, MAP group, tubulm, actinなどの細胞骨格蛋白に対する一次抗体に対しては反応を示さないことが判明した.一方抗ubiquitin抗体と抗cystatin C抗体は我々の症例の好塩基性封入体の一部を認識することが明らかとなった. Cystatin CはGolgi器官と関連する蛋白であるため,Golgi器官に対する抗体である抗MG160抗体,抗tans-Golgi-network抗体での免疫染色を試みたが,結果は陰性であった.しかしこれらの検討を通じて,好塩基性封入体を有する運動神経細胞はGolgi器官の断裂を生じていることが明らかとなり,これらの所見から,好塩基性封入体は運動神経細胞の変性過程において神経保護的に作用しているのではなく,変性に積極的に関与していることが示唆された.これらの結果の一部はActa NeuropathologicaおよびMolecular Mechanism and Therapeutics of Amyotrophic Lateral Sclerosisに発表した.封入体単離のためには主要構成成分を明らかにする必要があるため,我々はさらなる知見の集積を待って解析を続ける計画である.一方で,保存されている剖検脳組織から遺伝子を抽出し,tau遺伝子における変異の有無を検索する予定である.
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