研究概要 |
好塩基性封入体を伴う非定型運動ニューロン病の運動神経細胞脱落における封入体形成の意義を明らかにするために、われわれは当該研究期間において、まずこの封入体の構成要素を明らかにする研究を行った.封入体の単離と分析のためにはmarkerとなる成分の同定が必要であるため、種々の蛋白に対する一次抗体を用いて好塩基性封入体の免疫組織化学を試みた.その結果、tau2,AT8,Aβ,neurofilament, MAP group, tubulin, actin, vimentin, SOD1, α-synucleinなどの細胞構成蛋白に対する一次抗体に対しては反応を示さないことが判明した.一方抗ubiquitin抗体と抗cystatin C抗体はわれわれの症例の好塩基性封入体の一部を認識することが明らかとなった。 Cystatin CはG0lgi器官と関連する蛋白であるため、Golgi器官に対する抗体である抗MG160抗体,抗tans-GOlgi-network抗体での免疫染色を試みたが、封入体での染色性は認められなかった。しかし一方で、抗MG160抗体を用いて染色した脊髄前角細胞を詳細に検討すると、封入体を有する神経細胞はすべてGolgi器官の断裂が生じていることが明らかとなった.われわれの症例でみられたGolgi器官の断裂は、古典的ALSの症例において初期病変として報告されているものと同様の所見であることから、好塩基性封入体を伴う非定型運動ニューロン病の運動神経細胞変性においては、その初期段階から古典的ALSと共通の機序が関与している可能性が示唆された。さらに、好塩基性封入体は運動神経細胞の変性過程において神経保護的に作用しているのではなく、変性に積極的に関与している可能性、封入体形成とGolgi器官の断裂には共通の病的機序が関与レている可能性が示唆された。
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