研究概要 |
メロシン欠損症は新生児期より筋緊張低下、運動発達障害、高クレアチンキナーゼ血症を示す重症の先天性筋ジストロフィーである。我々は、本疾患では生直後に激しい筋の崩壊が生じることが特徴であることを発見した。また、その著しい筋細胞死の機序を解明するため、52日令で筋生検を施行されたメロシン欠損症例に注目し、筋細胞関連タンパク質の発現とともに筋細胞壊死のマーカーであるMACならびにアポトーシスのマーカー(caspase,TUNEL法)を用いて組織化学的にその発現を検討した。その結果、変性筋線維では壊死のみならずアポトーシスのシグナルも発現しており、その発現パターンは、いずれか一方のみが発現している場合と両者が共存している場合がみとめられた。メロシン(骨格筋基底膜の主ラミニン)の欠損による細胞外からのシグナル伝達障害が広範な筋細胞死に関連している可能性を示唆した。 また、メロシン欠損症と酷似した筋病理像を呈する福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、本邦に特異的に多い疾患である。原因遺伝子産物としてフクチンが同定されているがその機能に関しては明らかでない。我々はFCMDの病態機序ならびにフクチンの機能を解明することを目的に、FCMDにおける基底膜ならびに関連タンパク質の発現を検討した。その結果、FCMDではメロシンの受容体の一つであるαジストログリカン(α-DG)の発現がほとんど認められず、一方で同じ遺伝子より翻訳後産生されるβ-DGの発現は正常であることを発見した。FCMD筋におけるメロシンならびにインテグリンの発現低下といった、我々のこれまでの研究結果と合わせ、FCMDの筋障害の原因として筋細胞膜内外のタンパク質連関の異常が重要であると考えられた。さらにα-DGは組織特異的な強い糖鎖修飾を受けるタンパク質であり、α-DGの選択的欠損から、フクチンが糖鎖修飾に関連している可能性をも示唆した。
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