研究概要 |
筋ジストロフィーの発症機序には,筋細胞膜内外のタンパク質相互連関がきわめて重要な役割りを果たしていることが示唆されている.我が国に特異的に多い福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は生後まもなく発症する重篤な筋ジストロフィーである.生検骨格筋の病理像をみると早期より強い筋のジストロフィー変化をきたし,壊死線維に加え,未熟な筋線維が多く,筋の分化・再生が十分でない可能性が考えられる.FCMDでは基底膜の構造が脆弱で骨格筋特異的に発現しているラミニン(メロシン)の二次的欠損が認められる.我々はこの一因として,細胞表面膜タンパク質であり,組織特異的な強い糖鎖修飾を受けているα-ジストログリカン(α-DG)の選択的欠損を発見し,報告した. α-DGはインテグリンとともに基底膜の主成分であるラミニンの受容体であり,同一遺伝子にコードされているβ-DGと複合体を形成し,筋細胞膜裏打ちタンパク質であるジストロフィンと結合している.FCMDの原因遺伝子産物フクチンの機能や局在は未だ明らかとなっていないが,FCMDにおけるα-DGの選択的欠損は,その糖鎖修飾の異常に由来している可能性が強いと考えらる.すなわちフクチンが糖鎖修飾酵素としての機能を有しているのではないかと考えられる.また,FCMD類縁疾患であるメロシン欠損型先天性筋ジストロフィーの骨格筋では,インテグリンの二次的欠損を報告しているが,加えてα-DGも正常骨格筋とは異なった糖鎖修飾を受けている可能性を見いだした. 最近,フクチン関連タンパク質の異常がCMDの一因となること,FCMD類縁疾患であるmuscle-eye-brain diseaseが糖鎖修飾酵素遺伝子の異常によること,この両疾患ならびに筋ジストロフィーモデルマウス'myd'骨格筋ではα-DGの異常が認められること等が報告されており,α-DGの糖鎖修飾が筋ジストロフィーの発症機序を解明する上できわめて重要であると考えられる.今後これらについての解明を進めていきたいと考えている.
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