心不全は虚血性心疾患や心筋症による心臓のポンプ機能の失調により発症する。その末期には心移植が唯一の治療となり、予後が極めて不良である。本研究では筆者らのこれまでの心筋への遺伝子導入成果を踏まえて、心臓への新しい遺伝子到達手段の開発を目的として企画した。特に今回はrAAVベクターによる遺伝子導入の検証とδ-サルコグリカン遺伝子導入による心筋症ハムスターの発症抑制の検討を目的とした。人工呼吸開胸下でハムスター左室心筋層内にreporter geneのLac Z及び正常のδ-SG遺伝子をCMV promoterで駆動させたrAAVベクターを投与した。15-40日後に心摘出しδ-SGのtranscriptとtransgeneをNorthern blottingとWestern blottingで検討し、更に一部の心筋の凍結標本を作製し各蛋白の特異抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、左心短軸面心尖部で心筋細胞の約40%にtransgeneが全生涯発現した。この時rAAVベクターに病原性は認めなかった。SG蛋白が発現した細胞は他のα-、β-、γ-SGも共発現した。in situで心筋細胞膜の透過性を検討する為にEvans blueを静注後に心を摘出し、その蛍光画像とδ-SGの抗体による二重染色によるCell exclusivity試験は細胞膜機能をin situで検討した。遺伝子治療の後、心エコー検査で収縮期径は共発現群で改善した。その結果収縮率と駆出率は共に共発現した群で改善した。更に遺伝子治療の後、行った心カテーテル検査の結果、LVdP/dt_<min>、LVEDP、CVPはLac Z単独治療群と比較してδ-SG遺伝子を共発現した群で改善した。最後に多数の動物の予後についてKaplan-Meier分析を行った結果Lac Zの単独治療群に比較して、δ-SG遺伝子を共発現した群で明らかな延命効果が得られた。本研究は重症心不全が遺伝子治療により真にrescue可能である事を示す世界最初の成功例であり、今後臨床応用が期待される。
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