本研究では、ダール食塩感受性(DS)ラットにおいて代償性心肥大期から心不全期にいたるまでの心不全進展過程におけるエネルギー代謝について検討した。心筋脂肪酸代謝は131I-iodophenyl-9-methylpentadecanoic acid(9MPA)を用い、グルコース代謝は^<14>C-deoxyglucose(DG)を用いた。心筋の脂肪酸およびグルコースの取り込みとその心筋内分布を定量的autoradiography法(バイオイメージングアナライザ-BAS3000)により、また薄層クロマトグラフィー法により9MPAの代謝産物を評価した。インスリンクランプ法により、グルコース取り込み能についても検討した。 24時間絶食後の心筋代謝は、代償性心肥大期にはエネルギー基質の相対的な割合は脂肪酸からグルコースへ移行した。しかし、心筋取り込みの絶対量はグルコースのみならず脂肪酸も増加した。一方、取り込まれた脂肪酸がベータ酸化を受ける割合は代償性心肥大期に既に低下していた。心不全期にはグルコースの取り込みが一層増加する一方、脂肪酸の取り込みは低下し、脂肪酸がベータ酸化を受ける割合も心肥大期より低下した。このように心不全期にはエネルギー基質が心肥大期より一層グルコースへ移行した。食塩非感受性(DR)では、加齢とともに主なエネルギー基質がより脂肪酸の方向に移行した。インスリン投与により、DRラットおよび心肥大発症前のDSラットではDG取り込みが約3倍に増加したが、DSラットの肥大期にはその増加は20%であり、心不全期にはインスリン投与にかかわらずDG取り込みはほとんど増加しなかった。 本研究により明らかになった点は、1)代償性心肥大期にはエネルギー基質がグルコースへ移行したが脂肪酸の心筋取り込みの絶対量もむしろ増加した。しかし、取り込まれた脂肪酸の代謝能は既に低下していた。2)代償性心肥大期にはインスリン刺激によるグルコース取り込み能低下が存在した。3)心不全期にはこれらの異常がさらに進行した。今後は心不全治療によりこれらの代謝異常がどのような影響を受けるか検討したい。
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