研究概要 |
心筋おける甲状腺ホルモン作用と電気的特性との関係を調べるために、ヒト甲状腺ホルモン受容体(hTRβ)の野生型(TRwt〉およびドミナントネガテイブ突然変異体(TRG345R)の遺伝子を、アデノウイルスを用いて新生ラット心室筋培養細胞に導入した。パッチクランプ法により活動電位および一過性外向きK電流(I_<to>)の記録を行ったところ、TRwt導入群においては活動電位持続時間の短縮と、I_<to>電流密度の増加が見られた。一方、TRG345R導入群においては活動電位持続時間の延長と電流密度の有意な減少が見られた。これらの結果、in vitroレベルでアデノウイルスを用いた甲状腺ホルモン受容体遺伝子の導入が、心筋細胞の興奮性を調節するための新しいアプローチとなりうることが示唆された。 また、in vivoレベルでの甲状腺ホルモン受容体遺伝子導入による心臓興奮性の遺伝子工学的調節の可能性を検討した。左室心尖部から刺入し大動脈根部に進めたカテーテルの先端からアデノウイルスを注入して成熟ラットの心臓にTR遺伝子を導入し、心臓興奮性に対する効果を体表面心電図により検討した。その結果、TRwt遺伝子導入群においてはRR,QRS,QTの心電図各種パラメーターの短縮が見られ、一方TRG345R遺伝子導入群においては上記心電図パラメータの短縮が見られた。これらの結果、甲状腺ホルモン受容体遺伝子導入による心筋電気特性の修飾がin vivoレベルにおいても可能であることが示唆された。
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