研究概要 |
器質的心疾患を有する不整脈患者の生命予後を改善する唯一の抗不整脈薬として注目を集めているアミオダロンの作用メカニズムの一つに、甲状腺ホルモン拮抗作用による心選択的な甲状腺機能低下状態が関与していることが報告されている。本研究においては、野生型甲状腺ホルモン受容体β(TRwt)およびドミナントネガテイブ突然変異遺伝子(TRG345R)をアデノウイルスベクターに組み込み(AdTR-wt, AdTRG345R)、心臓に遺伝子導入を行うことにより、心筋内での甲状腺ホルモン作用を調節し、遺伝子導入による心臓電気特性の制御が可能であるかどうかを調べた。そのために、methimazoleを4週間投与し、甲状腺機能低下ラットを作成、麻酔下に開胸術を施行、左室心尖部よりカテーテルを挿入し、大動脈・肺動脈をクランプした状態で、AdTR-wt, AdTRG345Rを注入し、遺伝子導入を行った。遺伝子導入後は毎日thyroxine(T4)を腹腔内投与し、遺伝子導入10日目に体表面心電図を記録し、各心電図パラメータを対照群と比較した。また、右室流出路から電気的期外刺激を加え、心室頻拍誘発試験を行い、遺伝子導入による不整脈誘発に対する効果を調べた。その結果、TRwt導入群においてはRR、QTが対照群に比し、18%および14%短縮していた(n=8、P<0.05)。一方、TRG345R導入群においてはRR、QRS、QTが対照群に比し、18%、22%延長していた(n=8,P<0.05)。また、心室頻拍誘発試験では、対照群においては8例中全例で持続性心室頻拍が誘発されたが、TRG345R導入群のラットでは持続性心室頻拍は8例中2例、非持続性心室頻拍は8例中3例で誘発されたのみであった。これらの結果より、アデノウイルスを用いたドミナントネガティブ突然変異甲状腺ホルモン受容体遺伝子の導入は、心臓に抗不整脈リモデリングをもたらすための新しいアプローチとなり得ることが示唆された。
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