研究概要 |
【背景】循環器疾患領域では慢性心不全患者に対する運動療法が運動耐用能、QOL、短期生命予後を改善することが知られているが、運動時には自律神経・体液因子の亢進が不可避であるため運動療法は単独では、心筋不全を助長し、予後を悪化させる可能性は否定できない。しかし、快適な仮想環境下での運動負荷は情動さらに自律神経に作用し交感神経賦活化を抑制する可能性がある。【目的】健常成人を対象にベッドサイドウエルネスシステムによる仮想環境の自律神経・体液因子に及ぼす効果を検討する。【方法】健常人8名に50%AT(嫌気性代謝閾値)運動、9名に安静時心拍の10〜20%程度の増加をきたす低負荷運動を施行した。2種の運動強度それぞれに対し、仮想環境のすべての機能(映像・音響・風香)を提示して運動負荷を行なう試験(VR+)と仮想環境の機能を隠蔽した状態で行なう試験(VR-)の2条件で、運動前中後の心拍数、血圧、血中カテコールアミン3分画、血中コルチゾールを測定し、低負荷運動検査では心拍数のみ計測した。【結果】(1)50%AT運動負荷:安静時/運動時/運動終了30秒それぞれの平均心拍数と血圧は仮想環境の有無による変化を認めなかった(VR(+);64±6,93±9,83±6,VR(-);65±7,91±9,83±8bpm、VR(+);115/60±9/7,146/65±13/7,138/59±14/9,VR(-);114/59±15/14,131/62±21/18,127/59±26/20mmHg)。安静時から運動時への体液因子の変化はアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、コルチゾールともVRの提示の有無で有意な変化を認めなかった。一方、目標心拍までの到達時間では、VR(+)で8例中7例がVR(-)と比較して延長する傾向にあったが統計的有意差を認めなかった(VR(+);144±95sec、VR(-);81±40sec、p=0.117)。(2)低負荷運動負荷:安静時/運動時/運動終了30秒それぞれの平均心的数は仮想環境の有無による変化を認めなかった(VR(+);64±6,93±9,68±7,VR(-);65±7,91±9,67±9bpm)。運動終了後の心拍数の回復過程は、仮想環境のある運動で早いが、統計的有意差を認めるには至らなかった。【結語】仮想環境における運動は健常者において、少なくとも自律神経・体液因子に悪影響せず安全に施行できることが明らかになった。心疾患患者は些細な刺激により自律神経・体液因子が活性化されることから、今後は心不全を対象に仮想環境の安全性・有用性を検討していく予定である。
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