【目的】心肥大のシグナル伝達における活性酵素の関与を成熟ラット心筋細胞おいて明らかにした。 【方法】10週齢雄SDラットより心筋細胞を分離・培養後、心筋細胞をendothelin-1(ET)・phenylephrine(PE)にて刺激。心筋細胞内活性酸素、MAPK系(ERK、p38、JNK)活性、3H-phenylalanine細胞内への取り込みを測定した。活性酵素の測定は心筋細胞にdichlorofluoresceinを負荷後、蛍光顕微鏡下に細胞の蛍光輝度を測定することにより行い、MAPK系活性の測定はリン酸化型抗体を用いたウエスタンブロット法により行った。また抗酸化剤で心筋細胞を前処理後、同刺激によるMAPK系活性・心筋細胞の蛋白合成能の変化について解析を行い、MAPK系を介する心肥大シグナル制御に対する活性酵素の関与を明らかにした。同刺激によるMAPK系活性の変化については、成熟ラットにおける変化を新生児ラットにおける変化と比較しその相違を明らかにした。 【結果】ET・PE刺激により成熟ラット心筋細胞内活性酸素は刺激後5分をピークに急速に増加した。その増加はDPI(NADH/NADPH oxidase阻害薬)前処理により抑制されたが、ロテノン(ミトコンドリア電子伝達阻害薬)前処理によっては抑制されなかったことより、その発生源は細胞膜のNADH/NADPH oxidaseと推測された。同刺激により成熟ラット心筋細胞内ERK活性は増加したが、p38、JNK活性は変化しなかった。これと対照的に新生児ラット心筋細胞において同刺激はERK・p38・JNK活性を全て増加させた。抗酸化剤処理により成熟ラット心筋細胞内活性酸素・ERK活性の増加は抑制され、心筋蛋白合成も抑制された。 【結語】成熟ラット心筋細胞において活性酸素が心肥大シグナルを制御していること、活性酸素の発生源は細胞膜のNADH/NADPH oxidaseと推測されること、抗酸化剤投与により心肥大形成が抑制されること、心肥大誘導刺激に対するMAPK系の反応性が成熟ラット心筋細胞と新生児ラット心筋細胞で異なることが証明された。
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