研究概要 |
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養系にトロンビン1U/mlを添加し,DCFHを用いた蛍光法により細胞内H2O2を測定することにより活性酸素の産生を解析した.HUVECでの活性酸素産生はトロンビン(1U/ml)添加4時間後より有意に増加し,24時間後には添加前の約2倍に達した.また,活性酸素の産生はトロンビンの添加濃度(0.1U/ml,1.0U/ml,10U/ml)に依存して増加した.各種の活性酸素産生系の阻害薬による検討では,トロンビンによる活性酸素の増加はミトコンドリア電子伝達系のuncouplerであるcarbonyl cyanidem-chlorophenylhydrazone(CCCP)の添加により最も強く抑制され,NADPH oxidase阻害薬であるquinacrineの添加によっても有意な抑制がみられた.一方,xanthine oxidase阻害薬であるoxypurinol,prostagrandine生成系の阻害薬であるindomethacinでは抑制されなかった.また,トロンビンによる活性酸素の増加はミトコンドリア電子伝達系の複合体IIの阻害薬であるTTFAの添加によっても有意に抑制されたが,複合体Iの阻害薬であるDPI,複合体IIIの阻害薬であるmyxothiazolの添加では抑制されなかった. 以上の結果により,トロンビンは血管内皮細胞においてミトコンドリア電子伝達系,特に複合体IIでの活性酸素の産生を著しく増加させることが明らかとなった.このトロンビンによる活性酸素の産生亢進は血管内皮細胞から産生・放出される一酸化窒素の消去、あるいは細胞内シグナル伝達への影響などを介して,血管内皮細胞の傷害や機能低下をもたらす可能性がある.
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