研究概要 |
トロンビンによるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)での活性酸素の産生部位を明らかにするために,活性酸素産生系の阻害薬を用いた検討を行ってきたが,本年度はさらに蛍光プローブとしてDCFH-DAおよびMitotracker Redを用いたConfocal laser microscopyによる検討を行った.この結果,HUVECではトロンビン1U/mlの添加により,細胞内H2O2の指標であるDCFH-DAのシグナルが増強し,さらにこのシグナルはミトコンドリアの指標であるMitotracker Redのシグナルの局在と一致していた.これらの結果はトロンビンによる血管内皮細胞での活性酸素の産生部位は主としてミトコンドリア電子伝達系であることを示唆している.さらにこのようなトロンビンによるHUVECでの活性酸素の産生亢進はアスピリン1mMの前処置によりほとんど消失した.トロンビンによる活性酸素産生はindomethacinの前処置では全く抑制されなかったことから,アスピリンはCOX活性の抑制を介さない機序により,トロンビンによる活性酸素産生を抑制すると考えられた.また,抗ニトロチロシン抗体を用いたイムノブロット法による解析により,HUVECへのトロンビン添加はperoxynitrite生成の指標であるニトロチロシンの形成を有意に増加させることが明らかとなり,トロンビンによる活性酸素産生の増加が一酸化窒素(NO)の消去を促進していることが示唆された. 以上の結果により,凝固カスケードの最終産物であるトロンビンは血管内皮細胞においてミトコンドリア電子伝達系での活性酸素産生およびそれに伴うNO消去を亢進する結果,血管内皮機能低下をもたらすと考えられた.
|