研究概要 |
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養系にトロンビンを添加し,DCFH-DAを用いた蛍光法により細胞内H_2O_2を測定することにより活性酸素の産生を解析した.HUVECでの活性酸素産生はトロンビン(1U/ml)添加24時間後に約2倍に増加した.トロンビンによる活性酸素の増加はミトコンドリア電子伝達系のuncouplerであるcarbonyl cyanidem-chlorophenylhydrazone(CCCP)の添加により最も強く抑制され,NADPH oxidase阻害薬であるquinacrineの添加によっても有意な抑制がみられた.一方,xanthine oxidase阻害薬であるoxypurinol, prostagrandine生成系の阻害薬であるindomethacinでは抑制されなかった.また,トロンビンによる活性酸素の増加はミトコンドリア電子伝達系の複合体IIの阻害薬であるTTFAの添加によっても有意に抑制されたが,複合体Iの阻害薬であるDPI,複合体IIIの阻害薬であるmyxothiazolの添加では抑制されなかった.Confocal laser microscopyによる検討では,トロンビン1U/mlの添加により,細胞内H_2O_2の指標であるDCFH-DAのシグナルが増強し,このシグナルはミトコンドリアの指標であるMitotracker Redのシグナルの局在と一致していた.アスピリン1mMの前処置はトロンビンによるHUVECでの活性酸素産生亢進をほぼ完全に抑制した. 以上の結果により,トロンビンは血管内皮細胞においてミトコンドリア電子伝達系での活性酸素の産生を亢進させ,血管内皮細胞の傷害や機能低下をもたらす可能性があることが示唆された.
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