平成12年度は正常心筋における収縮力調節の細胞内機序、および不全心筋の収縮調節におけるGTP結合タンパク質を介する情報伝達系の異常を見いだし、心不全治療のターゲットとなる遺伝子を決定するための基礎実験を行ってきた。 1)イヌの心不全モデルでGTP結合タンパク質Gq-RhoA-Rho kinaseを介する情報伝達が亢進しミオシン軽鎖のリン酸化を亢進させ、その結果収縮タンパク質のカルシウム感受性を増強させることを観察した。この系は収縮不全の代償機構および、拡張不全の一機序となっている可能性がある(論文revised中)。 2)ラット心筋に特異的に発現しているミオシン軽鎖脱リン酸化酵素サブユニット(M21)の機能解析を行った。その結果、M21は収縮タンパク質のカルシウム感受性を増強させることを観察した。(論文印刷中) 3)RhoA-Rho kinaseによるミオシン軽鎖のリン酸化亢進が不全心筋の機能異常の一因である可能性がある。RhoAをターゲットにした組み換え遺伝子導入実験を行う前に、薬物を用いた基礎実験を遂行中である。ラットの心不全モデルを用いてRho kinase阻害薬であるY-27632を経口的に長期投与して不全心筋のリモデリングが抑制されるか、収縮機能異常(収縮障害、拡張障害)が改善されるかを観察中である。 4)培養心筋を用いて、Gqにより活性化される可能性のある新しいカルシウムチャネルの同定を遺伝子工学的手法を用いて解析中である。
|