虚血再灌流障害とアポトーシスとの関連が最近明らかにされたが、心筋保護効果を示すミトコンドリアのATP感受性K^+(mitoKATP)チャネルとアポトーシスの関係は不明である。そこで、ラット培養心筋を用いてmitoKATPチャネルとアポトーシスとの関連を検討した。過酸化水素の暴露で心筋細胞のアポトーシスが誘導され、その時間経過は二相性(前期:早期の急激な増加と、後期:緩やかな増加)を示した。同時に、ミトコンドリア内膜電位(mito電位)の低下も同様の時間経過であった。mitoKATPチャネル開口剤のDiazoxide(Dia)の前処置(30分)で過酸化水素による前期アポトーシスとmito電位の低下は抑制されたが、後期の細胞死は抑制されなかった。Diaの前処置でmito電位は一過性で軽度の脱分極を示し、mitoKATPチャネルの阻害剤である5-hydroxydecanoate(5-HD)でこの脱分極は抑制されて、Diaによる心筋保護作用も消失した。しかし、細胞膜のKATPチャネル阻害剤のHMR1098ではDiaの作用は影響を受けなかった。また、過酸化水素の暴露で誘導される後期のアポトーシスはDiaの前処置ではなく、過酸化水素との同時投与で抑制された。本実験で以下のことが示された。 1)過酸化水素でミトコンドリアの内膜電位の低下とアポトーシスが誘導された。 2)DiaによるmitoKATPチャネルの開口で酸化ストレスによるアポトーシスが抑制される。 3)mitoKATPチャネルはプレコンディショニングのtriggerまたはmediatorとして作用する。 4)mitoKATPチャネル開口による内膜電位の一過性の低下がtrigger作用に重要である。 本研究で、ミトコンドリアのATP感受性のポタシウムチャネルがtriggerあるいはmediatorとして心筋保護に関与していることを明らかにした。このことは、このチャネルが虚血性心疾患の新たな治療薬の対象と成りうることを示唆するものである。
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