研究概要 |
圧および容量負荷による心肥大が形態学的に異なることは明らかにされているが、分子的反応についての検討は行われていない。今年度の本研究では、圧および容量負荷のかかった心房筋の遺伝子発現をDNAチップによって解析した。対象は当院にて心臓手術を施行した患者9名で、Swan-Ganzカテーテル検査及び心エコー法によりコントロール群、圧負荷群(平均右房圧>7mmHg)、容量負荷群(中等度以上の三尖弁逆流)の3群(n=3)に分けた。右心耳心筋よりmRNAを抽出し、DNAチップ(Mergen社)を用いて2139個の遺伝子解析を行った。コントロール群および容量負荷群に比べ、圧負荷郡ではcyclin-dependent kinase inhibitor 1A(CDKI1A, p21, 11.7±3.1 fold vs control)及びdual specificity phosphatase 1(DSP-1, MKP-1, 26.2±2.1 fold)の発現が有意に(P<0.05)亢進していたが、成長因子であるepidermal growth factor、insulin-like growth factor、また血管新生因子であるhepatocyte growth factor、vascular endothelial growth factor mRNAの発現は、3群間に差を認めなかった。本研究により、圧負荷時の細胞増殖に向かう生体反応に対し、自己防御的に細胞周期の制御もしくは細胞増殖の抑制を行うことで、自ら平衡状態を保つ方向に調節している可能性が示唆された。現在さらに、これら発現が亢進していた遺伝子についてreal-time PCR法によってその発現を確認しているところである。
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