数多くの研究は、さまざまな原因による血管内皮障害に基づく内皮由来一酸化窒素の産生低下が血管リモデリング発症に関与していることを示唆している。これに対して、一酸化窒素類似のガス状物質である一酸化炭素の心血管系における意義に関する研究はいまだほとんど存在しない。本研究では、生体での一酸化炭素合成に関与する酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO)のうち、誘導型であるHO-1のトランスジェニックマウスを利用し、一酸化炭素の生理学的意義を血管トーヌスにひいては、血圧形成に及ぼす影響について検討した。我々は、SM22alphaのプロモーター領域を利用したHO-1トランスジェニックマウスを作成し、血管平滑筋細胞特異的にHO-1が過剰発現するモデルマウス(Tg)を樹立した。Tgの血圧は、尿中NOX排泄が亢進しているにもかかわらず、野性型に比べて有意に上昇していた。この現象を説明するためNOに対する血管反応性ならびに血圧に与える変化を検討した。その結果、#1 Tgでは、L-NNA投与にても有意な血圧上昇を認めず、2週間後には同処置を施した野性型との間に血圧の有意差を認めなくなった。#2SNP投与によるTg由来大動脈組織cGMPの増加は、野性型に比較して有意に抑制されていた。これらの結果は、TgのNOに対する感受性が低下していることを示していた。NOはsGCの活性化を介してcGMP上昇を惹起することから、Tg大動脈におけるsGC蛋白ならびに遺伝子発現をウエスタン解析、RT-PCR法にて検討した。その結果、sGCのサブユニットであるalpha 1ならびにbeta 1の発現レベルに差を認めなかった。現在、これらの結果を踏まえて、HO-1の過剰発現がsGCのNO感受性に与える影響ならびにその機転を解明中である。なお、これまでの結果は現在Circulation Research誌に投稿中である。
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