ライフスタイルの欧米化が、肥満を伴う高血圧・糖尿病患者の増加をもたらした現在、我々には、これら患者の臓器障害の予防が求められているが、血管壁のRedox Stateの変化は臓器障害の基本病態である血管リモデリングに中心的役割を演じている。我々はこれまでに一酸化炭素(CO)とビリルピンを産生に関与する酵素ヘムオキシゲナーゼ(HO)が、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に存在し、抗動脈硬化作用を有する可能性を報告した。そこで本研究では血管壁HO/CO系が有する血管壁における病態生理学的意義を我々が樹立に成功した誘導型HO過剰発現マウスならびにラット頸動脈内皮傷害モデルにより検討することにある。遺伝子改変動物を利用したHO/CO系の血圧ならびに血管トーヌスにおける役割の検討により、HO-1過剰発現マウスでは、野生型に比較して血圧上昇を呈することを報告した。これは、過剰に産生されたCOがsGCにおいてNOの作用を阻害する結果、一酸化窒素(NO)に対する血管拡張性が減弱しているためであることが示された。また、ラット内皮傷害モデルを用いた新生内膜肥厚に与える影響の研究の結果、傷害血管にはHO-1発現が一過性に誘導されること、これを阻害することにより新生内膜肥厚形成が増強することを示した。その反対にHO-1発現を長期に傷害血管に誘導することにより新生内膜肥厚形成が有意に抑制されることが明らかにされた。これらの結果は、血管壁HO/CO系がNOと相互作用を有し、血管機能に多大な影響を与えている可能性を示している。現在、ヘムオキシゲナーゼ遺伝子をアデノウイルスに組み込んだコンストラクトを利用した遺伝子導入による動脈硬化病変に対する新しい治療法開発へと研究を発展させている。
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