(はじめに)拡張型心筋症の20-30%は慢性ウイルス性心筋炎が原因ではないかと推測されている。しかし、慢性ウイルス性心筋炎がどのような経緯で拡張型心筋症に移行していくかということはまだ不明である。その前に、急性ウイルス性心筋炎から慢性心筋炎に移行するメカニズムもまだ明らかではない。本研究では動物実験において慢性心筋炎成立のメカニズムと、それが拡張型心筋症に移行し得るか否かを検討した。(方法)生後1-2日のSD、Wistar、Fisherの三種類のラットにコクサッキーB3ウイルスを接種、2週以内に心臓、肝臓、胸腺、腎臓を観察。慢性期も病理組織学的観察、また、in situ hybridization法による検討を行った。組織学的観察はホルマリン固定を行った心臓から5μmの厚さの切片を作り、HE染色、マッソン染色を行い、光学顕微鏡にて観察。心筋内ウイルスの検出は従来のin situ hybridizationに比べて短時間かつ安定性のあるビオチン標識オリゴヌクレオチドをプローブとして用いたrapid in situ hybridizationによって検索した。心臓をホルマリン固定後、パラフィン包埋した組織から厚さ3μmの切片を作製してウイルスゲノムの検索を行った。(結果)生後数日より、心臓、腎臓、胸腺にコクサッキーB3ウイルスゲノムが認められたが、肝臓、大脳、肺、大腸、小腸ではみられなかった。慢性期は心内膜直下に線維化がわずかに観察されたが、他臓器には変化がなく、ウイルスゲノムも陰性であった。(まとめ)慢性期の観察では心筋炎の後遺症はみられなかった。今後さらにウイルスの接種量や方法を検討する必要がある。
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