1.研究目的: 今回我々は、不全心の心筋細胞リモデリングにおけるMatrix metalloproteinase(MMP)の果たす役割について調べる目的で、自然発症心不全ラットに対しMMP阻害薬を投与し検討した。 2.方法 (1)実験モデル 自然発症心不全ラット(SHHF/Mcc cpラット)を用い、コントロール群、MMP阻害薬早期投与群、中期投与群、MMP阻害薬晩期投与群の4群に分けた。MMP阻害薬は、早期治療群は6月齢(肥大心発生前期)より、中期投与群は12月齢(肥大心発生期)、晩期治療群は22月齢(心不全発生前期)より投与した。4群とも24月齢で以下の実験に供した。 (2)心エコー図 心エコーにより左室内径、前壁厚、後壁厚を測定、収縮率を計算した。 (3)単離心筋細胞の作製 ラット心を摘出後collagenaseを含むJoklik's mediaで灌流した後、左心室筋を切離し、単離心筋細胞を作製し、単離心筋細胞を作製し、a)b)c)のプロトコールを行なった。 a)0.5Hzのfield stimulationを加え、細胞収縮を発生させた。光学的方法により単離心筋細胞の収縮率、収縮速度、弛緩速度を測定した。 b)単離心筋細胞を1.5%glutaraldehydeで固定した後、組織学的に心筋細胞の長径を測定するとともに、Coulter Channelyzerを使用し平均細胞体積を測定した。平均断面積を算出、さらに平均断面積、細胞径は計算式により算出した。 c)単離心筋細胞を用い、Northern blotting法によりMMPを定量的に評価した。 (ア)SHHFラットでは、生後3ヶ月齢ですでに左室心筋細胞の断面積は、最大値(350-400μm^2)に達し、その後は変化が見られなかった。左室心筋細胞長は経時的に持続的に延長した。 (イ)同時期に心エコー上左室径の増加および収縮率低下が見られ、単離心筋細胞でも収縮、拡張機能の低下が観察された。 (ウ)MMP阻害薬の中期投与群、晩期投与群では、これらの心筋細胞のリモデリングが認められたが、早期投与では変化は軽減した。またコントロール群に比較しMMP阻害薬早期投与群でのみMMP mRNA発現の減少傾向が見られた。 (エ)また同時に行なったMMP阻害作用を有すると考えられるACE阻害薬およびタウリンを使用した実験でも、心筋細胞レベルで心肥大の著明な抑制が見られた。 4.結論: 心肥大から不全に進行していく過程において、早期に起こるMMPを介した心筋細胞のリモデリングが大きな役割を果たしていることが示唆された。
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