研究概要 |
心不全(CHF ; congestive heart failure)患者で,末梢血中の腫瘍壊死因子(TNF-α ; tumor necrosis factor-α)値が上昇し,CHF重症度(NYHAclass、BNP ; brain natriuretic peptide)と相関関係がある。最近,不全心筋内にTNF-α mRNA,蛋白の発現が示され,心筋自体がTNF-αの産生部位と報告された。一方,エンドトキシン(LPS ; lipopolysaccharide)刺激で健常人単球上にTNF-αが発現するが,CHF患者の単球の研究はなく,TNF-αの産生部位は不明。C-reactive protein(CRP)は冠動脈粥腫内に存在する急性反応性蛋白で,急性炎症,膠原病等で上昇し,単球上に炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-α等)を誘発し,ACS(Acute coronary syndrome ;急性心筋梗塞,不安定狭心症等)患者で上昇し,CHF発症に関与。対象と方法:健常者(8例,平均年齢48歳)とCHF患者(10例、平均年齢50歳,平均左室駆出率24%)より単核球を抽出。無刺激下(control),LPS(100pg/mL ;粥腫内に存在する濃度),CRP(10μg/mL ; ACS患者に認められる濃度)それぞれ単独,CRP+LPS刺激時における単球上に発現するTNF-αレベルをELISA法にて測定。結果:1)Control、LPS、CRP単独刺激時、CRP+LPS刺激時のいずれにおいても,CHF患者の単球上に発現するTNF-αは,健常者のそれらに比して有意に高値。2)CHF患者で,重症度(NYHA class,BNP値),血行動態の指標(肺動脈圧,肺動脈楔入圧等)はTNF-α値と有意な正の相関関係を認めた。以上より,CHF患者において,単球がTNF-αの主たる産生部位であることが示唆された。今後の研究:1)CHF患者において,心臓カテーテル検査時に心筋生検を施行し,心筋内TNF-αの蛋白・mRNA量(RT-PCR法)を測定し,単球上に発現するTNF-α量と比較。2)β遮断薬のカルベジロールが,心不全の予後を改善する機序として抗サイトカイン作用がある。心不全の治療に必須なACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬,利尿薬等を内服中の患者で,β遮断薬内服前,内服4週後において,単核球を分離し,Control、LPS、CRP単独、CRP+LPS刺激時における単球上に発現するTNF-α量を測定し,β遮断薬の効果を検討。3)上記2)の実験で,表面抗原CD-14(単球を認識),TNF-αに対するモノクローナル抗体を用い,Flow cytometry法にて,単球上に発現するTNF-α抗原量を測定。4)心不全患者において,単球内のTNF-αの受容体(TNF-α receptors ; TNF-R1 and TNF-R2)発現量を正常人のそれと比較する。
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