研究概要 |
本研究の目的はワルファリン(WF)の抗凝固効果に個人差をもたらす要因について体内動態(PK)と感受性(PD)に分けて検討し、日本人に対するWFの至適投与プロトコールを作成する事である。その目的遂行のため、本年度は血栓症予防の目的でWFを継続投与中の患者(日本人193名、白人60名、黒人35名を対象として、以下の検討を開始した。 1.(S)-WFの肝代謝活性と主要代謝酵素であるCYP2C9活性の人種間の比較 2.CYP2C9の遺伝子変異(CYP2C9^*2,CYP'2C9^*3,5'上流域)出現頻度の人種間の比較 3.Vitamin K依存血液凝固因子(F-II, VII, IX, X, Protein C, Protein S)の遺伝子変異出現頻度の人種間の比較 本年度はこれらの検討項目中、PKとPDに関する人種差について報告する。 1.(S)-WFの肝代謝活性(CLpo, u)の人種間の相異:CYP2C9遺伝子変異出現率はCYP2C9^*2,CYP2C9^*3、5'上流域、いずれの変異も白人の方が高い出現率を示した。一方CYP2C9の野生型のS-CLpo, u/kgは日本人の方が白人より有意に大きかった。従って、CYP2C9活性の人種差にはCYP2C9変異遺伝子出現率の人種間の相異に加えて、それ以外の要因の関与が示唆された。 2.WFの感受性に関する人種間の相異:日本人の体重当たりの平均WF投与量は白人や黒人とほぼ等しかったが、日本人はS-WFの代謝活性が白人・黒人より高かったために、WFの遊離形濃度(Cu)は白人より低値を示した。一方、WFに対する日本人の感受性(抗凝固効果INR/Cu)は白人・黒人より高かったため、最終的な日本人のINRは白人よりやや低い値を示していた。WFではこのように相反するPKとPDの人種差が最終的な患者の薬効に対して影響を及ぼしている可能性が明らかとなった。
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