昨年度私は、ペプチド性蜂毒素テルティアピンが、アセチルコリンにより活性化される心房筋細胞のムスカリン性K(K_<ACh>)チャネルを、細胞膜外側から膜電位非依存性にスローブロックすることを見出し報告した。今年度は、このペプチドを利用して、ムスカリン性アゴニストによる洞性徐脈にK_<ACh>チャネルがどのように関与するかを、ウサギ心臓のランゲンドルフ標本から記録した心電図で評価した。プロプラノロール存在下で、アセチルコリンの非水解性アナログのカルバコール(CCh)は、1nMから10μMの範囲で濃度依存性に洞性徐脈を誘発した。テルティアピン(100または300nM)は、300nM以上のCCh存在下で有意に心拍数を増加させたが、100nM以下のCChによる陰性変時作用には影響を与えなかった。そこでCChの陰性変時作用を、テルティアピン感受性成分とテルティアピン非感受性成分に分けた。前者は100nMより高濃度のCChで活性化され、CChの最大反応の〜75%を占めた。パッチクランプ法のホールセルモードで、K_<ACh>チャネルは実際この範囲の濃度のCChにより活性化された。一方、テルティアピン非感受性成分は1から300nMのCChにより濃度依存性に活性化され、CChの最大反応の〜25%を占めた。1μMのCChと300nMのテルティアピン共存下の洞性心拍数は、過分極誘発性非特異的カチオン電流I_fの特異的ブロッカーである2mMのCsCl存在下の洞性心拍数とほぼ同等であった。さらに2mMのCsCl存在下では、テルティアピン非感受性成分が存在しなかった。以上のことから、300nM以上のCChによる洞性徐脈は主としてK_<ACh>チャネルの活性化により、それ以下の濃度のCChによる徐脈は主としてI_fの抑制により誘発されると考えられた。
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