生体内の心室負荷を心筋の負荷に変換する枠組みの開発を行った。まず有限要素法で非線形均質等方性の材料特性を用い、中空球の形状で解析を試みた。有限要素法では、心内膜側と心外膜側おのおのの心筋歪み・応力を求められた。計算量が少ないラプラスの法則では壁内心筋歪み・応力分布が求められない一方、壁内心筋歪み・応力分布が求められる有限要素法では計算コストが大きく現時点で利用可能なコンピュータでは実時間計算が不可能であった。そのため私たちはさらにラプラスの法則による計算を多層化心筋モデルの各層に適応する新しい歪み・応力計算法を開発した。この計算法は計算量を過度に増加させることなく壁内心筋歪み・応力分布を求めることができ、非線形の材料特性や心室変形による幾何非線形を考慮に入れたものである。ただし心室形状は球形、材料特性は均質等方に限定された。有限要素法と同様に、心内膜側の歪み・応力が心外膜側に比して大きいこと、大動脈弁逆流(容量負荷)では拡張後期〜駆出早期に心筋の伸展がより顕著であること、大動脈弁狭窄で(圧負荷)は駆出期の応力が極端に大きくなることが明らかになった。これらの検討の結果、現有のコンピュータでも、容量負荷・圧負荷の程度に応じて心筋片に負荷する心内膜下、心外膜下での歪み(心筋長の相対変化)の大きさを定量的に実時間で計算可能であった。また高速コンピュータからの制御信号によって心筋に機械的刺激を与えるためのプログラムおよび制御回路を自作し動作の確認をおこなった。
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