本研究の目的は、遺伝性心筋症ハムスターBIO14.6を用いて、心筋症の発症の機序を細胞・分子レベルで明らかにすることである。これまでの研究では、モデル動物や患者の組織から抽出したmRNAをプローブにして発現解析を行ったため、細胞死や組織変性に伴う炎症反応や筋肉再生などの副次的な遺伝子発現変化の影響が大きく、発症のメカニズムを理解する上で最も重要である「初期過程における筋肉細胞の発現変化する遺伝子」の同定が困難であった。 平成12年度では、申請者は副次的な変化の影響を排除し、筋肉細胞特異的な発現変化する遺伝子の同定を可能にするために、培養細胞による病態モデル実験系を構築した。純度の高い心筋細胞を大量に取得するのは膨大な時間を要するので、骨格筋の初代培養細胞を用いた。このようなモデル実験系が病態を反映するのかどうかの検定を行った結果、心筋症ハムスター筋肉細胞では正常型に比べて、伸展刺激による遊離CPKの増加、ジストロフィンの細胞膜からの消失、また、静止状態でのCaイオン取り込み量の増加などの細胞機能異常を見出した。 次に、このような機能異常を有する細胞を用いて、発現解析を行うためにサブトラクションcDNAライブラリーを作製した。心筋症及び正常型ハムスター心臓のmRNAをプローブにして、このライブラリーを検索した結果、心筋症ハムスター心臓で増加している遺伝子54種を分離した。すでに報告されている組織から抽出したmRNAで発現解析を行って得られた遺伝子群と申請者が分離した遺伝子群とは、ほとんど一致せず、心筋症において筋肉細胞特異的に発現が変化遺伝子である可能性が高いと考えられる。さらに培養細胞で発現させ、細胞機能異常との関連性を評価している。現在、心筋症ハムスター心筋で発現が低下する遺伝子や発現量が低い遺伝子についても検索を行い、新たな発現変化遺伝子の同定を継続している。
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