Prader-Willi症候群(PWS)責任領域であるヒト15番染色体q11-q13に位置する刷り込み遺伝子の再活性化の可能性を検討するために、PWS患者および対照から樹立したリンパ芽球様細胞株を用いて実験を行った。薬剤としてDNAメチル化阻害剤として5-azadeoxycytidine(5-azadC)、ヒストン脱アセチル化阻害剤としてtrichostatin A(TSA)を用いて、細胞株を処理し、その前後で15q11-q13に位置する刷り込み遺伝子の発現の変化を観察した。その結果、代表的な刷り込み遺伝子であるSNURF-SNRPNはTSAでは再活性化を受けないが、5-azadCでは再活性化されることを見い出した。この、再活性化の分子機構を検討するために、さらに、詳しい実験を行い、薬剤投与前後における、SNURF-SNRPN遺伝子の状態を検討した。その結果、5-azadC投与により、プロモーター領域のDNAメチル化レベルが低下することに加えて、ヒストンアセチル化レベルが増加することを見い出した。このことは、15q11-q13における刷り込み遺伝子の発現調節において、DNAメチル化とヒストンアセチル化が関連して作用していることを示す。これらの結果は刷り込み遺伝子が薬剤により再活性化されることを直接証明し、PWSにおける薬物治療の可能性を示した点で、重要である。 さらに、DNAメチル化とヒストンアセチル化との関連を知るために、SNURF-SNRPN遺伝子でのヒストンアセチル化の状態を詳細に検討した。その結果、刷り込み遺伝子におけるヒストンアセチル化の親由来による違いはプロモーター領域に限局することを世界に先駆けて見い出した。
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