Bach2因子が造血幹細胞のB細胞への分化にどのよう役割を果たしているかを明らかにし、さらにBach2遺伝子の異常がB細胞性悪性腫瘍の病因や悪性度を規定する原因となっているかどうかを明らかにすることである。 (1).Bach2因子の下流に存在する標的遺伝子の単離。Bach2過剰発現株とコントロールとしてベクターのみを導入したRAJI細胞からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ法で、発現が2倍以上異なる12個の遺伝子を同定した。次にノーザンハイブリダイゼイション法で、各々の遺伝子の発現量の差が有意かどうかを検討した。その結果、BCL2ファミリーのメンバーA1とIL-12のホモローグEBI3遺伝子の発現が有意に過剰発現株で低下していることを見いだした。さらに、ノーザンハイブリダイゼイション法で12株のB細胞株でのBCL2-A1とEBI3の発現を解析した結果、Bach2の発現の見られない4細胞株にこれらの遺伝子の発現が見られ、Bach2の発現が見られる残りの8株では、これらの遺伝子の発現はまったく見られなかった。 (2).Bach2によるA1遺伝子の転写制御。 Bach2がA1の発現を直接制御している可能性を、electophoretic mobility shift assay(EMSA)およびプロモーター機能解析によって検索した。EMSAの結果、Bach2とMAFKのヘテロ二量体が結合するNF-E2配列類似の塩基配列がA1遺伝子上に二つ存在することが明らかとなった。一過性の遺伝子導入実験の結果、その内の5'上流域に存在するNF-E2配列を介してBach2がA1遺伝子の発現を抑制していることが明らかとなった。Bach2によりこれらのプロモーター活性が抑制されることを見い出した。 (3).腫瘍細胞でのLOH解析。ヒトBach2遺伝子のP1クローンを単離して、遺伝子の構造を決定した。この結果を用いてBach2遺伝子の各エクソンの近傍のイントロンの塩基配列に相補的なプライマーを作製し、PCR法を用いて、直接塩基配列を決定した。しかし、Bach2遺伝子のLOHが認められた症例においても腫瘍細胞で点変異はなかった。
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