研究概要 |
近年,炎症性疾患の背景に食細胞(とくに顆粒球)の機能亢進とそれによる組織傷害が深く関与していることが明らかにされてきた.本研究では,生体における組織障害のメカニズム,とくに生物活性蛋白・細胞外マトリックスと炎症担当細胞のアポトーシスとの関連性を,分子生物学的手法を使用して病態毎に明らかにし,組織傷害や炎症の慢性化に対する予防法ならびに治療法を理論的に確立することを目的とした.食細胞は機能を営んだのち,速やかに消滅する(アポトーシス)がこのことも炎症の終息のうえで重要な生体反応である.上記のいずれの疾患病態においても好中球・好酸球・単球マクロファージの機能亢進が知られているが,疾患の生じる臓器が限定されており,有効な薬剤も異なっているなど一様ではない。それらの原因として病態における炎症性サイトカインや関わる上皮細胞の性状の差が考慮される。疾患毎のサイトカインや生物活性を有する可溶性蛋白による各病態をin vitroで再現し,食細胞の機能ならびに細胞寿命の制御機構を検討した.筆者らは喘息治療薬であるテオフィリンが顆粒球のアポトーシスを誘導することを報告し(JCI,1997),炎症細胞のアポトーシスによる抗炎症的な側面が国際的に注目されている. 平成12年度の主なる実績 [1]炎症の終焉と食細胞アポトーシスの関係を明らかにするなかで,テオフィリンの細胞死誘導の作用機序を明らかにした. [2]主に喘息,慢性肺疾患を対象として,エラスターゼ,プロテアーゼ,TIMP,プロテアーゼインヒビターを測定して気道慢性炎症における好中球の関与が推定された. [3]好中球機能発現におけるホスホリパーゼD,PI3キナーゼの関与を解析した.この結果は好中球機能制御(細胞死も含めた)のうえで貴重な情報である.現在PI3キナーゼαおよびγの作用の差異を検討中である.
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