研究概要 |
先天性複合型下垂体機能低下症(CPHD : Combined Pituitary Hormone Deficiency)の病因解析とその臨床像の確立および本邦CPHDの実態を明確にすることを目的として,インフォームド・コンセントを得て集積した本邦ならびにロシア人CPHD症例を対象にPIT1,PROP1,LHX3遺伝子解析を施行した。 ロシア人CPHD症例ではPROP1異常症が高頻度に検出されたが,本邦CPHD症例には臨床的にこれらの遺伝子異常症と極めて合致する症例においても遺伝子異常は検出されず,本邦にはこれら転写因子の異常によるCPHDは極めて少ないと推測された。 また、Septo-Optic Dysplasia(SOD)症例のHESX1遺伝子解析では、本邦およびロシア人症例でもHESX1遺伝子に異常は検出されず、HESX1はSOD症候群の主たる病因ではないと考えられた。今後,下垂体発生分化に関わる新たな因子の同定や解析が必要であり,現在LHX4遺伝子の解析を進めている。 今回さらに、PROP1異常症の臨床像を明確にするため,PROP1遺伝子異常の同定されたロシア人CPHD症例の臨床的再検討を施行した。その臨床的再評価から,PROP1異常症は,(1)全例がLH/FSH分泌不全を合併する。(2)GHはすべて完全欠損であるが,成長障害の程度はPIT異常症より軽症である。(3)プロラクチン、TSH欠損の程度は症例により完全欠損から不完全欠損まで多様性が存在する。(4)加齢とともにACTH分泌不全を合併する症例もある。(5)下垂体前葉のサイズは,低形成から腫大を示すものまで様々である。など、マウスモデル(Amesマウス)から予想されていた臨床像より幅広いスペクトラムをもつことが示唆された。
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