我々の最終目的はDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)を根治治療にある。アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の欠点の1つとして、成熟筋細胞に感染が難しいことがある。我々はアデノウイルスベクターをヘルパー細胞に感染させ、その細胞を直接筋注することにより、成熟筋細胞への感染を可能とした。その原因はヘルパー細胞より、何らかの感染しやすくするファクターが出ているのではないかと考えた。昨年度はin vitroでの実験を行ったが、そのファクターを証明することは出来なかった。 我々はこの現象にはCytoPathic Effect(CPE)の関与があると仮説を立て、本年度はin vivoでの実験を行った。lacZ遺伝子を発現させることの出来るアデノウイルス(AdLacZ)を25MOIでヘルパー細胞である293細胞に感染させ、CPEを起こす前後のその細胞をそれぞれSCIDマウスの骨格筋に筋注した。CPE後の細胞を筋注する際には、ヘルパー細胞がCPE後に放出しているAdlacZと、我々が考えてい成熟筋細胞へ可能とするファクターを培養液に放出している可能性があるため、その培養液も同時に筋注している。注射5日後、マウスより注射した骨格筋を採りだし、ONPG法でlacZの活性を比較検討した。その結果、CPEを示す前の細胞を筋注した方が有意の差を持って、高い活性を示した。このことは成熟筋細胞に感染させるにはCPEが関与していることを示唆している。また、感染したヘルパー細胞と筋細胞が接着していることが、成熟筋細胞への感染に重要であることも同時に示唆している。
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