研究概要 |
近年、先天性心疾患の治療成績は著しく向上したが、未だ術前・術中・術後の管理で難渋する例が多い。また、手術が成功したとしても術後に不可逆的心筋障害が残存し、不整脈・心機能障害のためQOLが障害される例も多い。従来から肥大心では容易に心筋虚血から心筋障害へ進展することが指摘されており、先天性心疾患においても同様の病態が存在することが危惧される。そこで本研究では、先天性心疾患における心肥大・心筋障害あるいは心機能障害の発現機序における冠循環の関与と意義を解明するため、明らかな心肥大を呈するチアノーゼ性先天性心疾患の術前・術後の患児28例(フアロー四徴症19例、大血管転位症2例、両大血管右室起始症7例)(年齢:5.1±4.9歳)を対象として冠血流動態および予備能を血流速動態の面から検討した。術前・術後の心臓カテーテル検査時に、冠動脈内へdoppler guidewire(Flowire【□!R】,Cardiometrics 社製,USA)を挿入して、各冠血管血流速波形を記録。その波形から平均血流速および拡張期収縮期血流速比から冠血流量および血流プロファイルを定量的に評価。また、各血管内にadenosine triphosphate(ATP)1.0μg/kgを注入し、血流速パラメーターの変動および血流速の変動比から、冠血流量増加度(冠末梢血管拡張能=冠血流予備能)を算出し検討した。 その結果、術前例(16例)では、逆流血流の出現・冠血流プロファイルの異常・冠血流予備能の低下、など冠循環動態異常が全例でみられ、冠血管床での微小循環障害あるいは心筋コンプライアンス低下の存在が示された。一方、術後例(12例)では術前例に比して冠循環異常は統計学的に明らかに低頻度であった。また、同一症例(4例)での術前・術後の評価から、術後に冠循環・予備能の改善が見られるものの、乳児期手術であってもその改善には数年(2-3年以上)を要することが示された。この結果から、より早期の外科手術による負荷軽減が冠循環の改善に効果的であることが示唆された。また、姑息術のみの年長児例(今回の対象例では10歳以上)では冠循環異常が残存しており、加齢による冠循環異常の不可逆化ならびに心筋障害の進展の可能性が危惧される。
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