現在までに作製した組換えウィルスはCMVプロモーター制御下にBドメインを欠失したイヌ第VIII因子cDNAを組み込んだ第1世代アデノウィルス(Adeno/cFVIIIdelB)、CMVプロモーター制御下にクラゲGFPcDNAを組み込んだ第3世代レンチウィルス(Lenti/CMV-GFP)、肝細胞特異的プロモーター制御下にBドメインを欠失したイヌ第VIII因子cDNAを組み込んだ第3世代レンチウィルス(Lenti/HS-cFVIIIdelB)の3種類である。これらの組換えウィルスを用いてマウスへの導入実験を行った。1)第VIII因子ノックアウトマウス(以下KOマウス)に10*9pfu程度のAdeho/cFVIIIdelBを尾静脈より静脈内投与し、8週まで毎週眼窩静脈叢から採血し、第VIII因子活性(凝固1段法)と抗原量(ELISA法)を測定した。第1週目、第2週目の結果では、活性で40%以上、抗原で10%以上を認めたが、4週目からは第VIII因子活性、抗原とも測定できなかった。8週後には屠殺し下大静脈から採血し、Bethesda法でインヒビターの存在を検討した。10Bethesda単位を越える導入したイヌ第VIII因子に対する抗体の存在を認めた。2)C57BL/6正常マウスに、約1.0x10E8TUのLenti/CMV-GFPを尾静脈または腹腔内、肝皮膜下内、門脈系(腸管膜静脈)に投与し、それぞれ7日後にと殺解剖して肝臓を蛍光顕微鏡で観察した。門脈系以外の投与法では、肝臓でGFP陽性細胞を認めることができなかった。門脈系からの投与法では、各視野にいずれも数個のGFP陽性細胞を認め、肝臓をターゲットにした場合最も効率のいい導入方法と考えられた。3)KOマウスに約3.0x10E8TUのLenti/HS-cFVIIIdelBrを門脈内ルートで投与し、8週まで毎週眼窩静脈叢から採血し、第VIII因子活性と抗原量を測定した。第VIII因子活性については、第2週目で最高34%の活性を示し、8週目までおおよそ5〜10%程度の活性を維持した。第VIII因子抗原量については、2週目で最高3.6%、おおよそ1%のレベルを8週間維持した。第VIII因子活性と抗原量の不均衡の原因として、一つは採血時の組織液の混入という純粋にテクニカル問題と、イヌ第VIII因子分子がヒト第VIII因子分子に比べて1分子当たりの活性が高い可能性が示唆された。Bethesda法でインヒビターの存在を検討したが、レンチウィルスを投与したいずれのKOマウスにおいてもインヒビターの存在は認めなかった。
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