インスリン分泌と脂肪酸酸化は逆相関関係にあるが、両者の因果関係およびその病態機構については不明の点が多い。近年、膵臓β細胞においても肝臓と同様にカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI(CPTI)が脂肪酸酸化の鍵酵素として働くことが証明され、CPTI活性とインスリン分泌との逆相関関係が明らかになってきた。今回は、我々が単離したCPTIcDNAを用いた解析により、膵臓β細胞のインスリン分泌機構におけるCPTIの役割を直接的に解明したい。 本年は膵臓の解析に先立ち、まずCPTI欠損症例の分子学的解析を行った。対象は4症例で、いずれも低ケトン性低血糖症による痙攣で発症し、ライ様症候群の臨床診断がついている。酵素学的にCPTI欠損症と診断がつき、1家系(症例3)のみ血族婚があり他の3家系は非血族婚である。 培養皮膚線維芽細胞よりRNAを抽出し、RT-PCR反応で増幅したcDNAをpGEM-Tベクターにクローニング後サイクルシークエンスを行った。判明した変異については、ゲノムDNAレベルでもその存在を確認した。4症例8アレルの内、7アレルで6つの新しい遺伝子異常を発見した。その内訳は以下の通りである。症例1:G1425A(W475X)とA1494G(Y498X)の複合ヘテロ、症例2:T96G(Y32X)とA1079G(E360G)の複合ヘテロ、症例3:281+linsT(スプライシング異常)のホモ、症例4の父方:2027-2028+2delAAGT(スプライシング異常)であった。発見された全ての変異が、両親のどちらかに由来することも確認できた。以上より、我々の単離したCPTIcDNAが、ライ様症候群で発症したCPTI欠損症例の責任遺伝子であることが確認できた。日本人CPTI欠損症の遺伝子異常は多岐に渡り、頻度の高い共通変異は存在しないものと考えられた。
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