研究概要 |
[概要]日本人妊婦の母体血および臍帯血、85組の脂肪酸組成を定量分析し、n-3系、n-6系必須脂肪酸を中心に母体血、臍帯血間の相関を検討した。母体血、臍帯血にはn-3系列はドコサヘキサエン酸(22:6 n-3,DHA)、n-6系列はリノール酸(18:2 n-6)およびアラキドン酸(20:4 n-6,AA)が多く含まれ、飽和脂肪酸であるステアリン酸(18:0)、およびAA、DHAは臍帯血の方に多く含まれていた。また母体血のα-リノレン酸(18:3 n-3)とリノール酸(18:2 n-6)は臍帯血に比べ有意に多かった。それぞれの代謝経路上のエンドプロダクトであるDHAとAAは、逆に臍帯血で母体血に比べ有意に高かった。両者の相関はAA、DHAで認められた。母乳として初乳、育児用調整粉乳(市販品4社、8種類)の脂肪酸組成を分析した。初乳に比べ、調整粉乳はラウリン酸などの中鎖脂肪酸が多く、AA、エイコサペンタエン酸(20:5 n-3,EPA)、DHAなどの長鎖長の必須脂肪酸が少なかった。食事中の脂質、特に必須脂肪酸は人の体脂質組成に影響すると考えられているが、母乳は乳幼児にとって理想的な必須脂肪酸バランスの栄養源であると考えられることから、その脂肪酸組成を市販の育児用調整粉乳と比較するとき、AA、EPA、DHAの含量が調整粉乳では不足していた。燐脂質は多くの生理的機能を持ち、母乳中にも存在しているが、胎児や新生児の成長におよぼす生理的機能は明らかになっていない。コレステロールの生理的機能などと共に今後も胎児、新生児における栄養学的、生理学的機能の解明が必要である。
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