研究概要 |
本研究はサイトカインと髄膜炎の病態についての蓄積を総合的に発展させ,小児の髄膜炎におけるサイトカインストームの実態について詳細に検討することを目的とした. 免疫応答を制御するCD40-CD154(CD40L)について検討した.CD40はB細胞に,CD154は活性化T細胞に発現する.CD154が欠損するX連鎖高IgM症候群の患者ではエンテロウイルスウイルス感染が持続するとの報告がある.髄膜炎症例の髄液中の可溶性CD154をELISA法を用いて検討したが,全症例で感度以下であった.血清では認められたので,髄液中では血清より低値と考えられた.また,無菌性髄膜炎の活性化T細胞上に発現するCD154は対照群に比べて低下している可能性が示唆された.CD40-CD154は髄膜炎において関与をしていることが示唆された. 炎症性サイトカインの過剰産生によるサイトカインストームは,化膿性髄膜炎における中枢神経傷害を引き起こすことが知られている.大腸菌を接種して引き起こした化膿性髄膜炎のマウスの髄液中において,炎症性サイトカインであるTNFαとIL-6および炎症抑制性サイトカインであるIL-10は増加していた.デキサメサゾンを抗菌薬投与前に投与することによって,炎症性および炎症抑制性サイトカインはともに増加が抑制された.サイトカインストームを鎮めるのには有効と考えられた.しかし,炎症性サイトカインだけを抑制することはできなかった.炎症反応を選択的に調節するためには,抗サイトカイン抗体や抗サイトカイレセプター抗体,チロシンキナーゼ阻害薬などの検討を進める必要があろう. 小児髄膜炎の炎症反応の病態には多数のサイトカインが複雑に絡み合い,いわゆるサイトカインネットワークを形成していることが明らかになった.今後は,小児髄膜炎の予後改善のために,炎症反応の適度な制御が治療研究の課題となるであろう.
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