研究概要 |
ヒト先天性心奇形である心内膜床欠損は、新生児期では先天性心疾患の2〜4%、胎児期では10〜17%を占める。本症を引き起こす原因遣伝子としていくつか報告があるが、機能は不明である。本研究ではホモ全例の心臓に心内膜床欠損を持つpitx2欠損マウスを用いて本症の形成メカニズムを理解することを目的とした。pitx2遺伝子には3つのサブタイプpitx2a,pitx2b,pitx2cがあり、これらに共通するexon4の部分をLacZを含むターゲティングベクターで置き換えpitx2欠損マウスが作成された。本マウスでは、ヒトのRieger症候群に似た特有の顔貌、眼の異常、腹壁閉鎖不全、腸管回転不全、肺の右側相同が認められる。このマウス胎仔心臓をもちいて、LacZと異常心臓形態を発達にしたがって詳細に比較検討した。ホモでは胎齢9.5日に右心室の低形成と左心房の拡大がみられ、胎齢11.5日で房室管部位が異常に突出成長し、その内部の房室心内膜床が異常に大きく発達していた。胎齢13.5日では正常では認められる三尖弁、僧帽弁が形成されず、共通房室弁が認められた。LacZ発現は、左心室にはその発現が全く認められないが、両心房、右心室の中隔寄りにLacZ発現と、流出路に散在性にLacZ発現が認められた。組織学的検討では、胎齢12.5日では房室心内膜床内部にはLacZ発現は認められないが、その周囲心筋にはLacZ発現がみとめられた。本マウスの房室心内膜床組織の接着能は充分にあり組織学的にも間葉細胞が充満していた。さらに心房形態とLacZ発現を検討した。心発生初期にはPitx2は左静脈洞に限局して発現し、次第に右にシフトして右心房の左側(左静脈洞)を占有する発現がみられた。ホモでは右シフトが見られず、左心房の右側に発現していた。pitx2欠損マウスに見られる心内膜床欠損は、房室心内膜床組織が直接原因ではなく左静脈洞の停滞にあると考えられた。これらの結果から心内膜床欠損の形成には左静脈洞が重要な役割をしていることが示唆された。
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