研究概要 |
骨髄異形成症候群のモデルとして用いた骨髄異形成症候群由来の細胞株SKM-1で、造血因子(GM-CSF)および造血抑制因子(TGFβ)を使ってG1期での細胞周期調節を分子レベルで解析したところ、TGFβの添加によりlateG1期で細胞周期の停止をきたし細胞増殖が抑制されるがGM-CSF存在下ではTGFβの細胞増殖抑制作用および細胞周期停止作用は全く観察されなかった。この現象は骨髄系細胞が分化のある段階で本来働くはずの造血抑制因子からの細胞増殖制御機構が骨髄異形成症候群ではある条件下で制御不全となっている可能性を示唆しており、その原因として造血因子であるGM-CSFが関与している可能性をも示すものである。そこでまずG1期にGM-CSFにより骨髄異形成症候群由来SKM-1細胞特異的に誘導され、かつTGFβで遺伝子発現の抑制をうけない細胞周期関連遺伝子を同定を試み、解析したところ、TGF-β1はcyclin D1,D3,cdk 2遺伝子の発現に影響は与えないが、cyclin D2,cdk 4,6遺伝子の発現を抑制した。即ち、cyclin D2,cdk 4,6遺伝子のdown regulationが、TGF-β1の細胞周期のG1期停止作用に関与している可能性が示唆された。 次に正常ヒト造血前駆細胞を用いて、TGF-βの細胞周期におよぼす影響を検討した。その結果、GM-CSF, G-CSF, IL-3,TPO, SCFの存在下でCD34+CD38-ckit+分画は内因性TGFβにより細胞休止していたが、これとは対照的に内因性TGFβの影響を受けずに細胞周期が回転している未分化なCD34+CD38-ckit-細胞群の存在が確認された。これらのことは、正常ヒト造血前駆細胞では細胞の分化度の違いにより異なる細胞周期制御機構が存在することを意味しており、正常ヒト造血前駆細胞の分化増殖機構を考える上で重要なヒントを与えるのみならず、骨髄異形成症候群の病態の解明にも重要な意味を持つと考えられる。
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