研究概要 |
【目的】 末期腎不全に共通する腎病理像は糸球体硬化と尿細管・間質の線維化で、不可逆性変化とされている。HGF(肝細胞増殖因子)は線維化を促進するTGF-βに拮抗し、尿細管細胞の再生を促進させる。尿細管・間質線維化ラットモデルを用いて将来の臨床応用の前段階としてヒトHGF遺伝子治療を施行した。 【対象と方法】 1.腎尿細管間質線維化モデルの作成 一側尿管結紮ラットを作成し、腎機能、腎組織を結紮後2週と4週で検索する。 2.HGF, c-metの局在と遺伝子発現の検索 in situ hybridizationを用いて組織内におけるHGF, c-metのmRNAの発現とその局在についてPCR法を用いて確認する。HGFのレセプターであるc-metの発現も確認し、成長因子であるHGFの作用機序を推測する。抗HGF抗体、αSMA抗体,抗マクロファージ抗体を用いて腎間質の線維化抑制,マクロファージの浸潤抑制を確認する。 3.HGF遺伝子治療 ヒトHGF遺伝子をHVJ-リポゾーム法を用いて、一側尿管結紮ラットに週1回、4回筋注する。 【結果】 1.遺伝子治療ラットでは、腎内の内因性ラットHGFとその受容体であるc-metの発現を増加させた。 2.遺伝子治療ラットでは対照群に比し、腎間質の線維化とマクロファージの浸潤が有意に抑制された。 3.結紮後2週、とくに4週後では尿細管細胞の増殖が亢進し、アポトーシスが抑制された。 4.アポトーシス抑制機序はBclXL, Baxによるとの従来の報告と異なり、Bcl2が主と推測された。 【結論】 HGF遺伝子治療は慢性閉塞性腎症において尿細管細胞の生存率を高め、尿細管・間質の線維化の進行を抑制する。
|