研究概要 |
(1)急性期川崎病患者の線溶系の動態 産業医科大学病院小児科および関連病院に入院した川崎病患者を対象として、γグロブリン製剤大量静脈内投与(IVGG)前、IVGG終了直後、第10〜14病日、第30病日の4時点で、フィブリノゲン、フィブリン分解産物(Dダイマー)、プラスミノゲン、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)、プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)、トロンボモジュリンなどを測定し、心合併症あり群(A群)と、心合併症なし群(B群)で比較した。その結果、フィブリノゲン、Dダイマー、トロンボモジュリンの動態には両群間に差が認められなかったが、TPA/PAI-1比はA群が有意に低値であった。すなわち、線溶系を誘導するTPA量に比して、線溶系を阻害するPAI-1量が相対的に高値であると、冠動脈病変が起こりやすいと考えられる。 (2)遺伝子多型の検討 産業医科大学病院小児科および関連病院に受診した遠隔期および急性期の川崎病患者と健常ボランティアから、文書にてインフォームドコンセントを得た上で血液を採取した。末梢血白血球からスピンカラムを用いてDNAを抽出し、プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の血中濃度に影響を及ぼすPAI-1遺伝子プロモーター領域の4G,5G多型について検討した。川崎病既往例を心合併症あり群(A群)、心合併症なし群(B群)、対象群(C群)に分けてPAI-遺伝子多型の頻度を示すと、4G/4GはA群0%、B群20%、C群37.5%、4G/5GはA群33.3%、B群80%、C群50%、5G/5GはA群66.7%、B群0%、C群12,5%であった。すなわち、川崎病の心合併症あり群では、PAI-1の血中濃度を高めるアリル4Gのホモ接合体の頻度は低く、4G,5G多型がPAI-1を介して冠動脈病変の発生に影響している可能性は低いことが示唆された。
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