リソソーム性シアリダーゼの構造と機能との関係を明らかにして、シアリドーシスの病態を分子レベルで解明するため、研究を行った。プロテインデータバンクに登録されているサルモネラ、マイクロモノスポラおよびコレラ菌由来のシアリダーゼの構造情報を基に、ホモロジーモデリングにより、ヒトのリソソーム性シアリダーゼの3次元構造モデルを構築し、その活性部位の同定を行った。本酵素は、6個のβ-シートから構成される樽様の構造をとり、活性部位は、その中心に位置すると考えられた。 日本人シアリドーシス1型(チェリーレッド斑・ミオクローヌス症候群)の患者2例の解析を行い、2例ともにV217MとG243Rの遺伝子変異を伴う複合ヘテロ接合体であることが判明した。これらの変異に基づき、酵素蛋白質分子の構造にどんな変化が起こるかをエネルギー最小化法で予測した。いづれの変異においても、活性中心近傍に影響はみられなかったが、分子表面の同じ側面に変化を来たした。この面は、リソソーム性シアリダーゼの輸送と活性化に働く保護蛋白質/カテプシンAとの分子間相互作用に関係すると推測される領域である。ふたつの変異のうち、G243Rでは分子表面に大きな変化を来たすのに対して、V217Mは樽様構造のやや内側に位置して、表面上で変化すると考えられる原子の距離はG243Rに比べて小さく、変化を来たす領域も狭かった。それぞれの変異を持つcDNAを発現させた所、V217Mでは軽度の残存酵素活性を生じるのに対して、G243Rでは、活性が認められなかった。これらの変異の組み合わせにより、本症の患者の臨床表現型が規定されると考えられた。
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