リソソーム性シアリダーゼの構造/機能相関を明らかにして、難病であるシアリドーシスの病態を分子レベルで解明することを目的とした。昨年度に、プロテインデータバンクの情報を基に、ホモロジーモデリングにより、リソソーム性シアリダーゼの3次元構造モデルを構築した。今年度は、シアリドーシス患者で新たに同定した遺伝子変異により、酵素の立体構造にどんな変化を生じ、その結果として如何なる生化学的表現型をとるかに関して解析した。P80LとP316Lは、活性部位とその近傍に大きな構造編かを起こすと考えられた。例えば、P80は、種を越えて保存されている残基で、Lへの置換によって、P80が存在する主鎖や活性残基R78に変化が生じ、その近傍にも影響が及んだ。この変異を持つcDNAの発現の結果、酵素活性は全く認められず、酵素蛋白質も減少していた。一方V217M、W240RおよびG243Rの変異体では、活性部位に変化は見られなかったが、酵素分子表面の同じ領域(保護蛋白質/カテプシンAとの分子間相互作用に関係すると予想される部位)に変化をきたした。これらのうち、240RとG243Rでは、分子の表面構造に大きな変化を来たすのに対して、V217Mは分子のやや内側に位置しており、変異によって変化する原子の移動距離がW240RとG243Rでのそれに比較して小さかった。V217Mを持つcDNAを発現した所、残存活性が認められた。この変異を持つ患者では、臨床経過が緩やかであり、構造面からの解析結果とよく一致した。
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