ケラチンは細胞質内に蜘蛛の巣状に分布する細胞骨格タンパクであり、細胞の形態維持に重要な役割を果たしている。近年のケラチン研究の進展には目覚ましいものがあるが、ケラチン遺伝子の構造が解明され、ケラチン蛋白が中間径線維を形成する過程が分子レベルで理解できるようになったことである。ケラチン遺伝子および蛋白の研究は一部の遺伝性皮膚疾患の発症機序を明らかにするという全く予想されなかった展開をみせるに至った。米国シカゴ大学のFuchsらは、ケラチン蛋白(Keratin 14)のrod domainの一部が欠失した異常ケラチン蛋白を発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、単純型表皮水疱症(Epidermolysis Bullosa Simplex : EBS)の病的phenotypeを示した。さらにFuchsとEpsteinらにより、実際にケラチン遺伝子に点突然変異が存在することが報告された。その後も同様の手法を用いることにより、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症や掌蹠角化症をはじめとする多くの遺伝性皮膚疾患においてケラチン遺伝子の点突然変異および欠失が見い出された。現在では、ケラチン遺伝子の変異により、細胞が機械的刺激に対して脆弱となり、その結果として種々の病変が形成される一連の疾患群はケラチン病と総称されている。しかしながら現在ケラチン病の疾患概念が確立したものの、解決すべき課題は多々残されている。例えば水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の患者表皮では、顆粒変性が見られ、角化関連蛋白の一種であるフィラグリンの過剰発現が見られるが、ケラチン遺伝子の変異から何故このような現象が引き起こされるかに関しては全く分かっていない。また、先天性表皮水疱症患者の病変皮膚を、電子顕微鏡で観察すると、基底細胞の細胞質(特に核周囲)にケラチン蛋白の異常凝集物が観察されるが、有棘層より上層の細胞では、そのような凝集物は観察されない。この原因も現時点では、全く不明である。今回のわれわれの研究目的は、有棘層より上層の細胞では、ケラチン蛋白異常凝集物が消失する機序を明らかにすることである。平成12年度の研究目標は、トランスフェクション用コンストラクトの作製と、stable transformantの樹立が目標であったが、コンストラクトは既に完成した。また、pVgRXRをHaCaT細胞にstableにトランスフェクションした細胞株も樹立した。
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