今回の研究(平成12年度〜13年度)では、以下のことが解明された。 (1)邦人症例を含む、40例以上のヘイリーヘイリー病家系において、yeast Golgi calcium ATPaseのヒト型遺伝子であるATP2C1の変異が検出されたため、やはりATP2C1がヘイリーヘイリー病の原因遺伝子であることが確認された。 (2)正常ヒト皮膚器官培養系にSERCA2(ダリエ病遺伝子産物)阻害剤またはATP2A2(ダリエ病遺伝子)に対するantisense oligoを添加培養したところ、ダリエ病類似の組織学的変化が惹起された。従ってダリエ病は、ATP2A2のdominant negative効果ではなく、遺伝子産物の絶対量の不足(haplo-insufficiency)により生じることが確認された。またATP2A2のhemi-knock outマウスでは皮膚病変が見られないことより、本器官培養系はダリエ病の唯一のモデルと考えられた。 (3)培養ヒト角化細胞に50mJ/cm2のUVBを照射し、経時的に両疾患遺伝子の発現を検討したところ、両遺伝子とも照射後3時間には発現量が低下し、その後徐々に正常のレベルまで復帰した。 (4)培養ヒト角化細胞の培養液中のカルシウム濃度(細胞外カルシウム濃度)を低(0.03mM)から高(1.8mM)にシフトし、経時的に両疾患遺伝子の発現を検討したところ、両遺伝子ともシフト後3時間には発現量が上昇し、その後徐々に正常のレベルまで復帰した。 (5)培養ヒト角化細胞にIL-1、INF-γ、IL-6などを添加培養し、添加6時間後の両疾患遺伝子の発現を検討したところ、少なくともIL-6添加の系において両遺伝子の発現量が低下していた。 即ち上記(3)(5)より、紫外線照射によりIL-6などのサイトカインのシグナルが入り、両疾患遺伝子の発現量が閾値を越えて低下し、病変が惹起されることが推測された。また上記(4)より、遺伝子発現を増加させ得る何らかの因子による治療法の可能性が考えられた。今後は両疾患遺伝子のプロモーター領域を解析し、如何なる因子により転写制御が行われているか、内的あるいは外的因子による遺伝子発現増加が可能か否か検討を行う予定である。
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