研究概要 |
我々は、ポジトロン標識化合物の有する高い比放射能と高いエネルギー、および高感度のラジオルミノグラフィープレートを効果的に組み合わせることで、神経機能を維持している300μm厚の脳切片標本(酸素ガスを供給した生理的溶液中)におけるグルコース代謝を動的な2次元画像情報として描出できる新しい脳機能解析法(dynamic positron autoradiography technique, dPAT)を開発した。低酸素、薬剤など様々な負荷を与え、その前後でFDG([^<18>F]2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース)の集積過程を3コンパートメントモデルとしてPatlak解析に適用すれば、グルコース代謝速度の変化を経時的に評価できる。50分以上の虚血あるいは20分以上の低酸素の各負荷によって、虚血・低酸素負荷後のk3^*値は、負荷なしのコントロールに比べて低値を示し、それゆえ、虚列50分間および低酸素20分間を、不可逆的な神経細胞障害を起こす臨界点として設定した。そして、これに対する虚血/低酸素負荷中または再灌流/再酸素化直後の興奮性アミノ酸受容体(NMDA/non-NMDA)拮抗剤、フリーラジカルスカベンジャーあるいは低温の各投与による神経保護効果を、虚血/低酸素負荷後のk3^*値の低下が抑制されるかどうかで判定した。虚血に対しては、虚血中のフリーラジカルスカベンジャーを除くNMDA/non-NMDA拮抗剤と低温の各投与が保護効果を示したが、再灌流直後のどの投与にも保護効果はみられなかった。低酸素に対しては、低酸素負荷中の各投与はいずれも保護効果を示さなかったが、低酸素負荷直後の各投与はすべて保護効果を示した。従って、dPATによる糖代謝の経時的な定量評価は虚血/低酸素に伴う脳組織障害のメカニズムやそれに対する脳防御法を探索する上で有用であり、虚血の神経細胞障害には、虚血負荷中の興奮性アミノ酸が主に関与するのに対して、低酸素のそれには、低酸素を解除した再酸素化直後の興奮性アミノ酸とフリーラジカルが相互に協調して関与することが示唆された。
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