研究概要 |
50分間以上の虚血あるいは20分間以上の低酸素の各負荷を脳スライスに与えると、虚血・低酸素負荷後の[^<18>F]2-fluoro-2-deoxy-D-glucose([^<18>F]FDG)の取り込み速度定数(=k3^*値,脳グルコース代謝率に比例する)は、負荷なしのコントロールに比べて低値を示し、それゆえ、虚血50分間および低酸素20分間を、不可逆的な神経細胞傷害を起こす臨界点として設定した。そして、虚血に対しては、虚血中のフリーラジカルスカベンジャーを除くNMDA/non-NMDA拮抗剤と低温の各投与が保護効果を示したが、再灌流直後のどの投与にも保護効果はみられなかった。低酸素に対しては、低酸素負荷中の各投与はいずれも保護効果を示さなかったが、低酸素負荷直後の各投与はすべて保護効果を示した。従って、dynamic positron autoradiography technique(dPAT)による[^<18>F]FDGを用いたグルコース代謝の経時的な定量評価は虚血/低酸素に伴う脳組織障害のメカニズムやそれに対する脳防御法を探索する上で有用であり、虚血の神経細胞傷害には、虚血負荷中の興奮性アミノ酸が主に関与するのに対して、低酸素のそれには、低酸素を解除した再酸素化直後の興奮性アミノ酸とフリーラジカルが相互に協調して関与することが示唆された。 次に、非致死的低酸素の前処置を施行したラット(preconditioning群)と非施行ラット(コントロール群)のそれぞれから脳スライスを作成し、本来なら致死的な20分間の低酸素負荷前後の脳グルコース代謝速度を、[^<18>F]FDGを用いたdPATで定量評価した。前頭葉皮質などの関心領域において、低酸素負荷前のグルコース代謝速度は、preconditioning群とコントロール群との間で有意差はみられなかった。また、再酸素化後のグルコース代謝速度は、コントロール群では低酸素負荷前の値よりも著しく低下していたが、preconditioning群では低酸素負荷前の値に比べて有意な変化はなかった。従って、preconditioning群による低酸素耐性誘導が、グルコース代謝速度の維持を神経細胞のバイアビリティの指標として定量的に示された。さらに、アレイ(Atlas)を用いた遺伝子発現プロファイリングによって、この低酸素耐性誘導に対するストレス蛋白などの遺伝子発現の関与が示唆された。
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