我々の考案した薬剤輸送性塞栓性エマルジョンは、本邦で広く行われているHCCに対するTAEの実施における改良法として、我々の手で発表され(平成8年日本癌学会総会)、HCC等の脳腫瘍以外の腫瘍に対しては臨床応用され、少なくとも既存のTAEと同等の効果と同等以下の副作用である事が、少数の症例ながら確認されている。 この研究では、抗腫瘍物質自体の開発を目的としていないので、この件については他の多くの研究者の報告を参考とする。しかし、前項で述べたようにこの薬剤輸送系を用いた場合、全身投与や一回の非選択的動注での効果が不充分であっても、腫瘍細胞の局所的環境での高濃度による薬剤本来の(in vivoでの実験効果に近い)効果が改めて期待される。そこで、当輸送系に好ましい薬剤の共通した性状(特に油/水分配係数)を探る。 平成12年度は、血管内に塞栓されたエマルジョンから組織に移行する各種抗腫瘍剤・免疫作動物質(BRM)の動態をin vitroでシミュレートする実験系を作成すべく、種々の実験装置を作成し一部測定に供した。しかし、実際の生体組織での薬物動態をシミュレートしたものである確証が得られておらず、研究成果としての発表には至っていない。 今後、アイソトープ標識薬剤を用いた実験動物や剖検標本による組織検討が急がれる。
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