1.正常人における生理的な下肢深部静脈血流と、呼吸、腹圧のそれに及ぼす影響、および弁機能を評価した。健常人10肢を対象とし、仰臥位にて上半身半挙上した体位で、大腿静脈最中枢側弁近傍を超音波装置を用いて検査した。呼吸モニターの波形も同時表示し、静止像、動画像を記録することにより、弁の描出能、弁の形態、平常呼吸時の血流状態と弁の挙動、腹圧上昇時の血流と弁直下静脈断面積の変化を検討した。結果は、全肢で弁の描出と血流評価が可能だった。弁の形態は全肢正常で、平常呼吸時の血流は呼吸性の変動を呈することが多かった。腹圧上昇時、著明な逆流は認めなかったが、弁口からのjet状の瞬間的逆流が時に観察された。静脈断面積の10%以上の増大は1肢でのみ観察された。以上から、超音波検査で静脈弁と血流の正確な評価は可能であった。呼吸の大腿静脈血流に対する影響は大きく、著明な逆流は弁によって阻止されることが示唆された。 2.静脈弁機能不全の静脈疾患発生への関与を検討するため、下肢静脈撮影で確定診断の得られている深部静脈血栓症例9肢と静脈瘤症例6肢で同様の検討を行った。結果は、基質化血栓が存在した2肢を除く全肢で静脈弁の形態と機能の評価が可能だった。血栓症例の1肢を除く全肢で弁の消失または短縮化が見られた(P<0.01、対正常群、以下同様)。弁の開閉は全肢不明瞭だった。腹圧上昇時、全肢に1秒以上続く逆流が観察され(P<0.01)、静脈断面積の10%以上の増大は血栓症例肢の半数(3/6、P=0.2)、静脈瘤症例全肢(4/4、P=0.01)で観察された。以上から、静脈弁機能不全と静脈疾患発生の強い関連性が示唆された。
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