研究概要 |
高照度光照射が,痴呆老年者の睡眠・覚醒リズム障害や睡眠障害の治療法として応用されてきているが,本研究は,入院高齢者に対する高照度光照射が,昼間の覚醒度を上げ,夜の睡眠内容を改善することを期待し,同時に,眼科的検査や日常の光環境の連続的測定を行い,活動量,終夜睡眠脳波などの生理的指標の測定とあわせて睡眠障害を発現させている要因を探ることを目的としている.今年度は,一週間のうち4日以上睡眠障害のあるもの10名(男性4名,女性6名,81.2±8.8歳)を対象とし,プログラムを施行した.期間は7月末から10月初旬までの9週間を,コントロール,高照度光照射時,コントロールの各3週間毎に分けた.光照射は,昼食時間帯を利用し,約8000lux 1時間,照射装置を壁面斜め上方に設置した光療法室で施行した.コントロール条件では,日常生活照度下(約1000lux)で,光照射条件と同様に過ごした.施行期間中は,行動記録表を用いての観察及びアクチグラフによる活動量の測定を9週間連続で行った.また女性4名については,終夜睡眠脳波を光照射前,中,後の3週目最後の2夜に施行した.対象者の生活条件下の光環境についても,照度を連続して測定した.観察記録における結果では,10例中7例に明らかな効果が認められた(入眠障害改善2例,中途覚醒改善2例,午前中の眠気の改善3例,午後の眠気の改善2例).活動量については10例中3例で光照射後に夜間の活動の低下と昼間の活動の上昇が認められた.脳波記録では,4例とも照射前と比べ,照射時あるいは照射後に,中途覚醒時間や覚醒段階出現率の減少,睡眠段階2の出現率の上昇が認められ睡眠内容の改善が認められた.照射後の眼科的検査では,目に対する影響は認められなかった.来年度は,日照時間の少ない冬季においても同様のプログラムを施行し,光環境の測定結果などとあわせて検討を行う予定である.
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