研究概要 |
入院高齢者の睡眠障害の改善と,睡眠障害発現の要因を探ることを目的に高照度光照射を施行した.実験は夏季と冬季の2期,連続した9週間を,コントロール,高照度光照射時,コントロールの各3週間毎に分け,夏季10名,冬季9名を対象として行った.光照射は,昼食時間帯に,約8000lux1時間,照射装置を壁面上方斜めに設置した光療法室で施行した.コントロール条件では,約1000luxで同様に過ごした.施行期間中,行動観察及び活動量を9週間連続して,また,終夜睡眠脳波を記録可能なものについて光照射前,中,後の3週目最後の2夜に施行し,部屋の光環境も,照度を連続的に測定した.夏季では,行動観察記録から入眠障害改善,中途覚醒改善,午前中の眠気の改善,午後の眠気の改善など10例中7例に明らかな効果が認められた.活動量については10例中3例で照射後に夜間の活動の低下と昼間の活動の上昇が認められた.脳波記録からは,照射前と比べ,照射時あるいは照射後に,中途覚醒時間や覚醒段階出現率の低下,睡眠段階2の出現率の上昇が認められ睡眠内容の改善が認められた.冬季には、行動観察から9症例中3例に,入眠潜時の短縮,午前の眠気の改善が認められた.睡眠脳波では,光照射時に,睡眠効率の上昇,中途覚醒の減少,睡眠段階2の出現率の上昇があり睡眠の質が改善していた.照射後の眼科的検査では全員異常なく,重篤な副作用がないことが証明された.被検者の光環境については,入口側では同時刻でも窓側に比べ著しく受光量が少なかった。窓側においても部屋の向きと時刻に影響を受け,日中の行動がベット周辺に限定される入院高齢者の光環境についても検討する必要のあることが示唆された.2期の実験から,昼食時の高照度光照射は入院高齢者の睡眠障害の改善に効果があると考えられた.しかしながら,効果の持続は冬季は夏季より短く、夏季に比べて日中の受光量が少ないことが原因しているとも考えられた。
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