研究概要 |
MMN(mismatch negativity)という事象関連脳電位は、前注意的情報処理に関連する記憶過程を反映する。また統合失調症の前注意的処理障害についてMMNとの関連性が注目されていた。研究代表者らは、MMNが反映する感覚記憶が時間統合機能を有する事を示し(Yabe et al.,NeuroReport,1997)、脳磁図によるMMN発生源同定(Yabe et al.,Psychophysiology,1998)に加えて、時間統合窓を160-170msと同定した(Yabe et al.,EEG journal suppl.,1999)。さらに、この時間窓内部の逸脱検出感度の変化を明らかにし(Yabe et al.,Cog Brain Res,2001)、時間統合と音凝効果との関係を報告した(Yabe et al.,Brain Res Int,2001)。また音の群化に関連する研究も行った(Shinozaki et al.,NeuroReport,2000)。一方でERP計測に有効なメジアン法を開発した(Yabe, Electroencephr. Clin. Neurophysiol.,1993、Yabe, BRMIC,1998)。体性感覚でのMMN相当成分を同定した(Shinozaki et al.,Cog.Brain Res.,1998)。統合失調症患者における薬物の覚醒レベルに対する影響を明らかにしてきた(Sato et al.,Schizophrenia Res,1999)。 本研究期間中に、ヒバ油芳香暴露下におけるCNVとMMNを比較し、MMNが極めて安定した脳反応であることを示し(Hiruma et al.,Biol. Psychol.,2002)、一方でMMNには側頭部成分と前頭部成分がある事を明らかにした(Sato et al.,NeuroReport,2000)。この所見を踏まえて、統合失調症では、側頭部MMNが急性期で減衰し、寛解期で回復し、前頭部MMNは、病相に関わらず低振幅である事を見出した(Shinozaki et al.,Biol.Psychol.,2002;Sato et al.,Biol. Phychol.,2002)。さらに、言語性MMNに反映される知覚の違いを報告した(Koyama et al.,Cog.Brain Res.,2000;Koyama et al.,NeuroReport,2000;Koyama et al.,NeuroImage, in press)。その上、N1,MMN, P3a成分ならびにRT指標として、統合失調症における不随意的注意メカニズムの障害を明らかにした(佐藤ら、臨床脳波、印刷中)。以上の結果を踏まえて、精神分裂病患者においてMMN発生の基盤にある感覚記憶の時間統合機能の検討を行った。その結果、精神分裂病患者におけるMMN振幅減衰という一元的な所見だけでなく、MMNの基盤にある感覚記憶の時間統合機能障害が存在する可能性を示唆した(MMN2000,Barcerona,2000)。 今後、上記所見を踏まえてMMNを指標とした言語性幻聴を持つ統合失調症患者の研究報告を行っていく予定である。
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